福井県特別支援教育センターで受ける教育相談のうち,学習面を含む相談は4割を占めています。私たちが出会う,学習意欲を著しくなくしている児童生徒のなかに,低学年の頃,ひらがなやカタカナの習得が難しかったり,書くことに人の何倍も時間がかかっていたりしたというエピソードを聴くことが多いのです。知的に発達の遅れはないものの「読み書き」に困難さがある児童生徒や「読み書き障害」や「限局性学習症」と診断がある児童生徒がそこに含まれています。
おしゃべりはとても上手,発表もできる,しかし,学年相当の漢字がほとんど書けない,音読が苦手,ノートに写せないといった書字や読字に対する困難さや記憶力の弱さを抱えています。その状態像も一様ではありません。しかし,その状態像に対して十分な理解と適切な対応がなされないままに,「どうして分からないの?」「本気で勉強しないから」「なまけている」「このままでは立派な大人になれない」というような周りからの評価を繰り返し受けてしまう子どもたちがなかにはいます。ご本人も「なぜ人と同じように読んだり書いたりできないのか」「努力しているのになぜできないのか」と自尊感情を著しく低下させ,学習そのものへの意欲どころか,学校生活を送る意欲さえ失ってしまうこともあります。
その支援方法がまだまだ確立されていないなかで,ようやく近年,それに関する情報が多く得られるようにもなってきました。
当センターでは,そのような児童生徒の早期発見や適切な支援方法について,組織として力量形成していこうと,平成28年度後期から平成29年度全期にわたり,そのアセスメントの方法や合理的配慮,有効な指導法や教材(ICT)等について十数回にわたり,事例も交えながら所内研修を行ってきました。
それらの内容をできる限り分かりやすく,多くの方々にお伝えしようと,このたび「読みや書きに困難さがある児童生徒に対するアセスメント・指導・支援パッケージ」を作成し,各学校や関係機関等に配付することにしました。是非,読み書きに対する困難さの早期発見・早期支援の一助として御活用いただき,児童生徒の「学びたい」「分かった」という学習意欲を大切にした支援や適切な合理的配慮がなされますことを願っています。なお,本冊子にまとめた情報は現時点での情報であり,支援や配慮の事例はあくまでも例示であります。今後も新しい情報にアンテナを高く持ち,子どもたち一人一人に合った支援方法や合理的配慮を共に考え,実践を積み上げていきましょう。
この冊子を作成するにあたり,関係する多くの皆様に御協力や御助言いただきましたことに厚く御礼申し上げます。
平成30年7月
福井県特別支援教育センター 所 長 西 尾 幸 代